一般社団法人 日本看護質評価
改善機構 代表理事 上泉 和子
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「マグネットホスピタル」の台頭は米国に於いて80年代に遡ります。「マグネットホスピタル」は広く知られている通り、「患者・医師・看護師を磁石のように引きつけて放さ ない、魅力ある病院」と定義されています
“マグネット”は磁石(Magnet)のことですが、1983 年に出版された“MAGNET HOSPITALS ?Attraction and Retention of Professional Nurses(マグネットホスピタ ル-魅力的な病院づくりと看護管理-)”で、「看護職を引きつけ、高い定着率を維持し ている魅力的な病院」をはじめて“マグネットホスピタル”とよびました。
1970年代後半、アメリカでは病院看護師不足に悩まされており、熾烈な看護師獲得競争 が行われていましたが、そうした中にあって、離職率が低く多くの看護師を引きつけて離 さない病院が存在していました。アメリカ看護師協会の一組織であるアメリカ看護アカデ ミー(American Academy of Nursing)は、1981年にアメリカ全土にわたって病院におけ る看護業務に関する詳細の調査を行い、なぜ看護職は辞めるかという研究ではなく、ある 病院ではなぜ看護職が辞めないかに注目し、看護師を引きつけて離さない“マグネットホ スピタル”、とその要因、具体的な看護プログラムなどを探求し、41の病院がモデル病院 として選定され紹介されました。
マグネットホスピタルの研究はさらに継続され、1988年にクレイマーらによって「マグ ネットホスピタル-優れた施設の条件Part1、Part2」が報告されました。この報告はピー ターとウォーターマンの著書“In Search of Excellence”(日本には大前研一の訳に よって「エクセレントカンパニー -超優良企業の条件」というタイトルで出版されまし た)で明らかになった超優良企業の8つの特色が、どの程度マグネットホスピタルにも該 当するのかを明らかにしたものでした。
1982年の調査で選定された41施設のうち、地域に応じて1/3の対象施設を選び合計16施 設をこの調査の対象としました。エクセレントカンパニーに認められる8つの条件(表2) について、病院を訪問して総数273人ヘッドナース、247人の臨床専門家、16人のCNE (Chief Nursing Executive 看護部門最高責任者)へのインタビューを行っています。結 論としては、「原則6基軸から離れない」以外は、超優良企業と同様の特徴が認められ、 「このことがマグネットホスピタルの看護が優良であるといわれる所以である。」と結論 づけています。
1990年代からは、マグネットホスピタルについて、多方面から実証的調査研究が多く行 われ、マグネットホスピタルの卓越したアウトカム、病院全体のマグネティズムの特徴を 明らかにすること、マグネット認定プログラムの開発など、エビデンスを蓄積することに 貢献され、この取り組みは大きく飛躍しました。
1983年にアメリカ看護アカデミーによって初めての調査が行われて後、1990年にアメリ カ看護協会から、諸認定を行うANCC(the American Nurses Credentialing Center (ANCC)米国看護認証センター)が分離新設され、卓越した看護実践を認定するプログラム をつくることが提案されました。1997年には名称がマグネット看護サービス認証プログラ ム(the Magnet Nursing Services Recognition Program)と変更されると共にプログラ ム認証クライテリアも修正されました。2002年に名称が再び変更され、現在の「Magnet Recognition Program(R)」となりました。マグネットファシリティーとして認定される までの過程は認定申請、書類審査、実地審査などがあります。マグネティズムを評価する ための指標は14項目で、これらの項目すべてについてどのような取り組みをしたのか、ま た改善を行ったのかを具体的に報告するものです。
2008年現在289施設がマグネットファシリティーとして認定されています。ANCCによる 認定を受けている施設の多くは米国であることはもちろんで、米国以外では、ニュージー ランドとオーストラリアの2カ国だけです。ANCCでは今後国際的な活動も視野に入れてい るとのことですが、英語圏以外ではまだ難しいようです。
認定をうけることはたいへん名誉なことで看護職員にとってはさらに動機付けが高まり ます。看護職の満足が高まることは患者の快復率に影響するだけでなく、患者が満足する ことで医師や他の職種も満足が高まり、その波及効果は大きいと報告されています。